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向田邦子さんの「霊長類ヒト科動物図鑑」
この本には、私たち「霊長類ヒト科」を観察して書かれた向田邦子さんのエッセイが約50個掲載されています。
向田さんはよく人間を観察しているのに、その視線は決して冷ややかではありません。
むしろ、どこかしらに温かみとユーモアが感じられ、
「あ、その感じ、わかるわかる!」と読み進めていくと向田さんと共感できるところがたくさんありました。
読んでいて、うまいなあ、と思ったのはエッセイのタイトルの付け方かなと思います。
エッセイのひとつに「いちじく」というのがあります。
(以下、「いちじく」より要約)。
①お料理がとてもお上手だった向田さん。
原稿の締め切りが迫ると、なぜか今しなくても良い手料理を始めてしまいます(なんだかわかる気がします)。
ここでは「いちじくのウイスキー煮酢味噌掛け」を作り始めます。
お料理はとてもおいしく出来たのですが、ふと思い出したことが書かれています。
それは、むかし自分の家の庭に大きないちじくの木があったのだけど、その時は、
「自分のうちにあると思うと食べたくなかった。考えもしなかった」ということです。
まさに昔はものを思わざりけりである。自分のうちにあるというだけで、有難いと思わずに見過ごしていたのである。(「いちじく」より引用)
②向田さんは3人姉妹の長女。妹さんたちとお洋服などの持ち物を取り換えっこすることがあるそうです。
これはもういらないからあげよう、と思って妹さんたちにあげると、
「自分の物を妹たちが上手に身に着けているのをみると、とたんにその物の良さがわかった気がします」とちょっと口惜しい気持ちについて告白しています。
③ある離婚した元ご夫婦は向田さんの共通のお友達です。
とあるパーティーで3人が一緒になった時の事。
もと奥さんは離婚して若々しく美しくなった様子で、それを見た元旦那様はなんだかお酒も進んで少し悔しそうに見えたことが書かれています。
①②③は一見バラバラのお話のような感じですが、エッセイのタイトルに改めて戻ると1本筋が通る感じで、そこをあれこれと思いめぐらすのが楽しい☆
その意味ではワシワシ読むというよりも、「1日1エッセイ」という感じで読み進めると良いペースなのかもしれません。
本の中に「ヒコーキ」というエッセイもあります。
人気脚本家、エッセイスト、小説家だった向田さんはお仕事でもまたプライベートでもよく飛行機を利用されたようです。
このところ出たり入ったりが多く、一週間に一度は飛行機のお世話になっていながら、まだ気を許してはいない。散らかった部屋や抽斗のなかを片づけてから乗ろうかと思うのだが、いやいやあまり綺麗にすると、万一のことがあったとき、
「やっぱりムシが知らせたんだね」
などと言われそうで、ここは縁起をかついでそのままにしておこうと、わざと汚いままで旅行に出たりしている。(「ヒコーキ」より引用)
ヒコーキに乗るのが本当は平気じゃない気持ちがぽつりと書かれていました。
・・なんだかなんだかですね。
向田さんのエッセイも、小説も、ドラマの脚本も、令和の今とは違って昭和の時代に生まれたものです。
なので時代背景は確かに異なります。
昔、ほんの子供の頃にちらっと見たり読んだりした向田作品。
大人になったからこそ向田さんの描かれたものにハッとさせられたり、泣きながら笑わせられたりと深く味わえるものなのでしょう。
昔のテレビドラマとかもレンタル屋さんとかで借りて作品をじっくりゆっくり観たくなりました。