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はて、この藤原さんは誰?にもしっかり答える 永井路子さん著「この世をば」

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今年の大河ドラマ

2024(令和6)年の大河ドラマは「光る君へ」です。

大石静さん作で、幼少期の藤原道長と紫式部の出会いからのお話が進行中です。

そして私も毎回楽しみにドラマを拝見しています。

 

ところでこの大河ドラマの初回のこと。

オープニングの配役のところを見ていて思わずのけ反ってしまいました。

理由は登場人物のほとんどが

「藤原さん」

であることからでした。

藤原兼家

藤原道隆

藤原道兼

藤原道長

藤原公任

藤原実資

藤原伊周

藤原行成

藤原宣孝

・・というように。

 

次々と繰り出される「藤原」問題に、

「こ、これは厳しい・・」と思って探し出したのが本書

永井路子さん著

「この世をば」(上下巻)でした。

 

永井路子さんはこんな方です

女性の役割に光を当てた歴史小説などを数多く発表し、「炎環」で直木賞を受賞。

資料を徹底的に分析し独自の視点で作品を生み出されました。

 

NHK大河ドラマ「草燃える」や「毛利元就」の原作も執筆。

令和5年1月ご逝去 (NKKアーカイブスより一部抜粋)

 

概要

左大臣 源雅信(みなもとの まさのぶ)と妻の穆子ぼくし)が自分たちの大事な娘の倫子(りんし)の婿を選ぼうといろいろ検討しているところからお話が始まります(注)。

 

当事者の日記など膨大な資料を読み込んだ永井さんが、登場人物のひとりひとりの心の動きや当時の社会情勢などを深く考察しながら、どのように道長が歩んでいったのか

を鮮やかに描いています。

 

(注)登場人物のお名前は別の読み方もあります。

特に高貴な身分の女性の場合にはあからさまにその名前を呼ばれることはほとんどなかったと思われるので、ほんとうの読み方はいよいよわからないのですとのことです。

そのため女性名は歴史の通例に従って音読みで統一いたしました、と作者の永井さんのおことわりのことばが巻末にあります。

 

感想

①家系図よありがとう!

本書には「家系図」が

お話の進行に応じていろんなバージョンで登場します。

 

例えばお話の中で登場人物のひとりが新たな婚姻関係を結んだとき、そこにフォーカスした家系図を示してくれています。

正直これがお話の理解には大助かりでした。

 

下の写真は本書の冒頭部分に掲載されていた

松村博司校注「大鏡」(日本古典文学大系21・岩波書店刊)による家系図の一部を自分が理解するためにノートに写させていただいたものです。

(そこにプラスしてなにやらメモ書きがありますがご容赦ください。)

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②道長さんを鼻持ちならないひとではなく、運のよい「平凡児」というとらえ方をしているのが斬新!

 

むかし古典の授業で習った道長さんのこの歌

「この世をばわが世とぞ思ふ望月の虧(か)けたることもなしと思へば」

 

この歌からは外祖父になることで権力を握った人間のおごり高ぶった姿を思い浮かべてしまいますよね(授業でもそのように習いましたし)。

 

この歌にどんな思いを込めたのかは、実際は道長さん本人のみぞ知るなのかもしれません。

 

でも「御堂関白記」「小右記」「権記」「大鏡」「枕草子」「紫式部日記全注釈」など膨大な資料を読み込んだ永井さんは通説とはいくらか異なった道長像を本書で提示してくれています。

 

父や兄たちのように人を押しのけてでも前に進んでいくような、

用意周到な、

360度目配りのできる、

したたかな

道長さんではなく

運のよい「平凡児」。

そして自分でもそのことをよくわかっている道長さんとして描いています。

 

「ああ、何たること、何たること・・・」というを道長さんのセリフを作中に何回も目にしました。

なにげないけれど印象深いセリフです。

 

この歌に対する考察も新鮮でした。

 

③学生の頃の古典や日本史の試験の前に読みたかった!

そうだったのか、と思うところがたくさんあったのでここで掲載する数を絞るのがとても難しいです。

たとえばこんな感じです。

当時は女系中心

当時彼らの意識の中に根強く残っていた女系中心の考え方が、この際大きく働いたことも見逃せない。

当時は父親中心よりも母親中心の結束が核になっている。

つまり同母の兄弟姉妹の結びつきが強いのだ。

詮子たちは藤原兼家の子供だが、時姫という母親を中心に結ばれており、異母兄弟である道綱とはやや疎遠である。

その意識をおし進めるならば、詮子にとって一番大切なのはわが子一条であり、次は道兼と道長だ。

伊周や定子は甥や姪ではあるが、女系から見るなら半ば高階系の人間でもある。(上巻p446~447)

(補足 道長の長兄 道隆の正室貴子(「きし」または「たかこ」)は高階の出であり、伊周と定子を生みます)

当時の皇位継承

東宮の方が天皇より年上という、今考えればまことに奇妙な現象がまかり通っていたのは、当時の皇位継承がしばしば兄弟や従兄弟(いとこ)の間で行なわれたからだ。(下巻p347)

 (補足 東宮とは次の皇位継承者のことです。)

「摂関職」より「左大臣」そして「内覧」を兼ねた

(補足 道長さん)は関白にはなっていない。「御堂関白」(みどうかんぱく)というのはじつは俗称であって、彼は左大臣のままで約二十年を過ごす。

後には摂政になるが、それも二年足らずで辞してしまうのである。(下巻p109)

(補足 「関白」の役割は政策を天皇に伝えることであり、重要事項を決定する公卿会議には参加しないことになっていました。一種の名誉職ですね。

一方「左大臣」は関白より肩書が少し低いのですが除目(貴族の人事)の決定権を持っています。

道長は「左大臣」ですが「内覧」という地位にも就任します。

「内覧」とは天皇が決済する文書に先に目を通す役職です。そうすれば他者に先んずることができますものね。名よりも実を取ったのでしょうね。)

 

④上下巻に分かれた長編でしたが、もの凄~く読みやすかったです

ですので本書を読んでから必要に応じて関連書籍を読むというのもいいかもしれません。

 

私の場合ですが、貴重な睡眠時間を削ってでも本書を読んでしまいました。

 

ところで今年の大河ドラマは永井さんの作品のアプローチとはもちろん違うものになります。

ですが本書を読んだうえでさらに一段と大河ドラマを深堀りできるのではないかなあと少しワクワクしています( *´艸`)